NATURE & CULTURE
Understanding environment through culture, UEHIRO×WASEDA Seminar series

全体の講義、3回のフィールドトリップを通した感想

山田のど夏

【1.はじめに】

私が当講義を受講したきっかけは、高校生の時から、「持続可能な社会の構築のためにできることは何か」、というテーマを常に念頭において環境問題について問題意識を持ちながら様々な活動に取り組んできたからである。2015年度、2016年度のアジア学生交流環境フォーラムへの参加を通じ、経済発展と環境問題が隣り合わせにあること、しかし一見二律背反に見える発展と環境保護は同時に成し得るべきものであるということを実感した。高校生の時から問題意識を持っているテーマに関し、「文化」「環境」といったキーワードから実体験を通して学びたいという想いで受講した。

この講義を受講して、これまでの「自然」や「環境保護」に対する考えに新たな視点を加えることができた。山形県高畠町のたかはた共生プロジェクト、北海道虹別コロカムイの会、アイヌコタン、福島県復興支援プロジェクト。フィールドワークで接したすべての方々が、古くからの伝統を守る中に、「新しいことに取り組む姿勢、時代変化に合わせた柔軟な改変」を兼ね備えていた。本当の意味での「持続可能な社会」は過去を守るだけにとどまらず、そこから生まれる新たな価値、また危機や苦難といた逆境をばねにする力だと感じた。日本では古くからの自然はどのように扱われているのか、有機栽培といった農業、生物多様性の保護は現在どのように取り組まれているのか、一度破壊された地をどのように戻すか、更に繁栄させるか、フィールドトリップを通じてそれぞれの地に生きる人々の強い意志を感じ、その思想を深く学ぶことができた。

講義では、フィールドトリップの事前に毎回予備知識を教えてくださったため、その地の文化や環境への考え方について時代を越えて認識することができた。そして訪れるフィールドトリップの場所が全く異なる地でありながら、それらすべては人文、つまり文化という観点において同じフィールドであり、私たちもそのフィールドの一端であるということを感じた。以下、訪れたフィールドトリップの場所ごとに、全体の講義で学んだ知識と共に感想をまとめた。

【2.山形県高畠町 2016年11月5日~6日】

有機農業による「提携」の原点とされている山形県高畠町を訪れた最初の印象は、空気がとても澄んでいる、ということだった。見渡す限りさえぎる人工物の少ない田畑を見ていると、都市開発や経済発展により失われた時間がゆっくりと流れているようだった。自然との調和を大切にしている地だからこそ感じられる自然との生き方について肌で感じる時間だった。

星寛治さんが営むリンゴ農園の訪問、そして実際に自分の手で収穫体験をさせていただいたことはその中で特に印象深かった。地域に根差し、地元の方々との交流を通じて農村、更には地域の充実を目指す姿勢に圧倒された。農業を「文化」として捉えた時、そこには四季折々の暮らしや生活様式すべてが組み込まれているのではないかと感じた。星さんは、「農村とか都市とか、国家とか異文化とかの垣根を越えて、価値観によって人と人とが結び合う生命共同体を創る」ことが、明日を創造する視座の定めの置くところだとおっしゃっている。そして、育てた作品を消費者へ直接「贈って」きた。地元の人々、そして「提携」の人々と共に、自然を通じて共同体を創っているという意識が、りんご農園の見学を通じて実感された。このように、古くから伝わる農業の考え方を、「共に生きる」悦びに繋げる星さんの考え方は、農業にとどまらず、時代の変化のスピードが著しい現在、日本文化の継承や日本そのものの持続的成長に深く関わっていると感じた。有機という視点から、農業に従事し、そして自給から提携へと新たな側面にも目を向けた高畠の取り組みは、農業という枠組みを超えた文化として受け継がれるべきものだと高畠を訪れて感じた。

初めての収穫体験ではリンゴ農園で育てられている多種多様な品種を見ることが出来た。有機無農薬だからこその艶やかでずっしりとしたリンゴの重みは、ひとつひとつ違う表情を持ち、赤く色づいていた。収穫したリンゴと頂いたラフランスを帰宅後からなくなるまで毎日食べた。有機で育てられたリンゴの触感やシャキッとした歯ごたえはスーパーで売られているものとは違う食べ物のようだった。リンゴを食べる度に、高畠の農家の方々の顔や自然が目に浮かんだ。リンゴという果実を通して、高畠の人々は食卓で食べる私たちと繋がっていた。提携を通じ、「自給する農家の食卓の延長線上に、都市生活者の食卓を置く」という言葉通り、ただ大切に自然を守るだけではなく、自然と離れた地で暮らす人々とのコミュニケーションを生んでいると感じた。

日本の有機農業の第一人者として、時代の成長の傍ら、有機というスローな価値観をもち、自然からの警告を受け、そして時にその自然に果敢に攻めていく姿勢は、「たかはたシードル」の開発にもみられる。たかはたシードルの価格設定の時、中川さんがお話しをしていたことが印象に残っている。中川さんは、高価格設定により利潤を追求することに対し、後ろ向きだった。「たかはたシードルをできるだけ多くの人に飲んでもらいたい」そして、「たかはたシードルを飲んだ時にこの土地を思い浮かべてほしい」とおっしゃっていた。シードルという今まで手掛けてこなかった新しい領域に挑戦することで、有機農業に取り組む高畠を知ってもらい、生産者と消費者がつながっていくことを目指し努力をされている。

19歳で就農し、農業基本法の制定、機械化といった様々な農業環境の変化、食の安全への揺らぎが深刻化する過程を実体験として持ってきた星さんだからこそ他人事としてではなく当事者意識を持って持続可能な成長における農業を行っているのではないか。「提携」という形で新たなコミュニティとのつながりを作り、「自然」「人間」「文化」といった軸で取り組んでいる「たかはた共生プロジェクト」を通じ、本物の農村づくりは、利便性の追求でも、大量生産でもなく、自然からの“贈り物”を通じて人と人とが繋がる架け橋となることではないかと思った。人間にとって住みやすい地をつくることは今の技術もってすれば簡単かもしれない。しかし、同時に多くの自然からの恩恵を私たちは失っているのではないか。農業者、都市民の協働によって持続可能な地域社会の原型を生んでいるこの地を発端に、次世代の農業というものを文化として捉えなおすことができた。

【3.北海道 2016年12月9日~11日】

今回訪問した標茶は、今年の夏にアジア学生交流環境フォーラムで訪れた場所であったため、夏の時との変化や季節による違いに関心を持ってフィールドワークに向かった。雪の中通る道では自然の厳しさを実感し、畏怖の念を抱いた。その中でも雪の中の巣箱の点検は非常に印象的だった。環境省設置の巣箱とは別に虹別コロカムイの会が設置した巣箱。彼らの作成した巣箱には温かみがある。ただ法規制やルールに乗るために作成したのではなく、シマフクロウの目線に立った巣箱が出来上がっているように感じた。虹別コロカムイの会の方々との歓談では、設立趣旨にもあるように、「営利や名声を求めず、ただひたすらシマフクロウのために奉仕することを目的とする」という心が率直に伝わってきた。利害関係の末シマフクロウを守るのではなく、シマフクロウのためにという気持ちが第一にある取り組みは、会員の方々皆共通であり、その一つの目的へ向けた取り組みの結束力には民間の力強さを感じた。常に、現状よりさらに良い環境にするにはどうすればよいか、シマフクロウがどのようにすれば大切に守られていくか、ということを考えながら取り組みをされている。シマフクロウにとって住みやすい環境を作りながら、人間にとっても住みやすい環境を目指す姿勢は、生物多様性という考え方において欠かせない理念だと感じた。生物は、ただ一人、ただ一種で生きていくことはできず、たくさんの生物と直接的・間接的に関わっている。河畔林の見学や養魚場の見学を通じて、いくつかの離れた地で共通してシマフクロウを守るための活動が展開されているという規模に感銘を受けた。地域の人々の自然に対する社会性や価値観がシマフクロウという一つの切り口から広がっていく過程において、将来性のある形で自然の中でシマフクロウを守ろうという一体感を深く実感した。

阿寒でのアイヌコタンの訪問、秋辺日出男さんのお話も印象的だった。アイヌの人々は、必ずしも伝統に固執しているわけではない。日頃からアイヌの伝統衣装を身にまとうわけではなく、ユニクロを着たり、ネット通販を利用したりと現代の文化を取り入れ、そして生活形態にも新たなものを取り入れている。しかし、一部の日本人は、アイヌの人々に、「なぜ伝統衣装を身に付けないのか」と尋ねるという。これは偏見であり、アイヌの人々の目線に立つと、「なぜ日本人は着物を着ていないのか」ということと同義である。このような差別偏見が現在も続いていることは、非常に情けないことだ。それに対し問題意識を持って生活している人は、ほんの一部でしかないように感じる。私たち世代が、こうして実際にアイヌの方からお話しをいただけることはとても貴重な経験であり、この経験をここで止めてしまうのではなく、「多様性」という観点から自分にできる行動を考え次のアクションに繋げなければならないと感じた。こうした環境の中でも前を向き、その伝統を後世に伝え、自然とともに生きる未来を構築しているアイヌの人々に学ぶべきところは多大だ。自然を破壊し、発展を目指してきた日本人とは違い、自然の中で、自然とともに発展をしているアイヌの思想は今立ち返るべきポイントである。アイヌの人々は、すべてのものに神(カムイ)が宿っていると考えている。だからこそ大切に自然と向き合うことができるのではないかと思った。伝統知という観点でお話しをいただけたことは、グローバル化が進行し異文化理解が謳われる現在、まず取り組むべき課題だと感じた。

鶴居村のフィールドワークでは、タンチョウヅルを間近で見たことが初めてで衝撃的だった。鳴き声や空を飛ぶ様子は、動物園では決して目にすることのできない光景だった。自然の中で、その一部として保護を行っているという点が、タンチョウヅルを尊重していると感じた。日本野鳥の会では、タンチョウが「安心して」過ごすことのできる環境を目指しているという。アイヌ語で湿原の神といわれるタンチョウは、古くからこの地に生息していて、その環境を壊してきた人間が、いざ数が減ると問題視し始める。この矛盾に立ち向かう野鳥の会の人々の活動に関心が強まった。そして、今回の鶴居村でのレクチャーや施設見学のようにタンチョウヅルに関する知識を伝えたり、実際にタンチョウヅルの卵と同じ大きさ、重さの卵を持ったり巣に入ったりする疑似体験ができる施設を設けたりすることは、訪れる人々にタンチョウヅルを知ってもらい、保護の意識を高めることに繋がると感じた。

極寒の中の北海道は、自然の本来の姿を反映しているようだった。吹雪の中、人間は寒さを逃れエアコンやヒーターの効いた屋内へ逃れる。しかし、同じ瞬間、自然界では多くの生き物が人間の利便性の追求の結果住む場所を失い、あったはずの棲家を失っている。この現実を、北海道という野生生物が多く生息する地で実体験として経験したことは、視野を大きく広げてくれた。

【4.福島県 郡山、川内村、大熊町 2017年1月14日~15日】

第1回ふくしま復興ワインセミナーでは、福島の復興に関してJWIS(Japan Wine Innovation Society)と共同でワインという新たな文化をもたらすという点において、ワインを地域文化のひとつとする6次産業の展開の可能性を強く感じた。JWISの協力体制では、中央葡萄酒(株)や福島大学、山梨大学科学研究センター、その他専門機関など、様々なステークホルダーの人々が関わっている。この取り組みに関わっている方々のお話を聞き、みんながワインを好きであるということ、また福島を復興するだけにとどまらず更に発展させていくという思いが共通しており、川内村を発端に波及する草の根の力に感銘を受けた。地域の「まちづくり」の一端として川内村の持つ「環境」の特性を活かして2020年を目標にワインの生産を目指すという、人と環境が生み出す新たな文化とその持続性に興味を抱き、自分もその一助をしたいと思った。

また、ワインセミナーの講演での「素直に育ててその土地の良さが出たら良い」という言葉が非常に印象的だった。のちに横田さんがモノ作りの視点から葡萄の栽培についてお話を下さったが、その時にもよみがえる言葉だった。利潤追求やアピールポイントの作成に走るのではなく、福島という土地で育つ葡萄を素朴に、素直に育てていくという姿勢がこの活動が草の根的に多くの人を巻き込む影響を持つ理由だと感じた。圃場見学で見た葡萄の木々は、まだ小さな苗木だったが、この先、この地で生産されたワインが店頭に並ぶ未来を想像すると、小さな活動を発端にし、人々が環境変化を待つのではなく自ら「変える」未来の素晴らしさを実感した。そして、ワイン造りを通じた復興に満足せず、新たな価値の創出に向けて常にアンテナを張っているという点も感銘を受けた。ワインは一つの手段であり、また新しいことを見つければそれも全力で行うという前向きな姿勢に、震災で屈することのない精神力を感じた。

また、福島第一原発を車窓から見たことや、大熊町の給食センター、今は津波の被害でなくなってしまった駅への訪問では、震災の被害の大きさに打ちのめされ複雑な気持ちになった。かつて駅があった場所は更地で何もなかった。海沿いの家々は割れた窓ガラスがそのまま残っていて、大熊町の住民は今一人もいない。この状況を目の当たりにし、静かな町を見ていると、ニュースでは知りえない現実を実感した。バスでは、震災前多くの人で賑わっていたという商業施設の立ち並んでいたところも通過したが、現在は跡形もなく、人の声一つなかった。福島給食センターは福島第一原子力発電所から約9キロのところにある。温かい食事の提供による労働環境の改善や雇用の創出などを目指し前向きに取り組んでいるにもかかわらず、風評被害に苦しんでいる様子に心が痛んだ。震災の被害は間接的なものが長期にわたって及ぶ。復興への思いを地域住民の方々はひとりひとりが強く持っているが、その思いすら届いていない現状に問題意識を持った。一人一人がとれる行動を小さなことから始めることが復興への第一歩となり、環境・人とのつながりを生むと思った。給食センターには課題が多く残っているが、今回の見学のように、市民への公開を積極的に行うことで、大熊町の復興に繋げていく姿勢に共感した。今回の見学では、全体を見ることはできなかったが、施設の方が、今後見学範囲を拡大するとおっしゃっているのを聞き、地域の人々を巻き込んでアクションを起こすことの大切さは、環境問題にとどまらず、すべての課題において求められると感じた。

【5.最後に】

この講義を受講して、本当に良かったと心から感じている。講義を受講しなければおそらく訪れることのなかった地域で、その土地に生きる人々の強い思いに触れることができた。座学で学ぶことは多くあるが、実際にフィールドに出て自分の目で見て、活動をしている方々とお話をすることは、百聞は一見に如かずだと思った。この講座で学んだことを、これからの活動に活かし積極的に行動していきたいと思う。

最後になりましたが、関わってくださったすべての方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。

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