Final Reflection: Hotsuki
「自然とともに生きていく」
日本 - 葉山帆月
0.はじめに
私は、自分の育った街が東京湾に面していたこともあり、小さいころから海を眺めるのが好きでした。そのため、幼いころから自然に対して興味を持っていました。中学校に入ってからは中国の成都にあるパンダ基地で飼育・清掃のボランティアを経験しました。また、大学ではイオン環境財団主催のアジア学生環境フォーラムに参加しました。そのフォーラムではベトナムに渡航し、現地に集まったアジア6か国72人の学生と、生物多様性と経済発展のバランスについて議論しました。
そのような経験から、環境問題についてより理解を深めたいと思い、今回の「文化から環境を考える」の授業を受けました。十数回の講義と2回のフィールドワークを通して、様々な新しい発見をしました。特に、①フィールドワークの手法、②留学生との交流、そして③アジア型環境倫理学の考え方、という3つの点で理解を深めることができました。そこで本レポートでは私が授業で学んだことをまとめるとともに、文化と環境との関連性について、新たな提言を発信でき
ればと思います。
1.最初の授業
私が本授業で最初に驚いたことは、受講生に留学生が多かったことです。全20人の学生のうち、16名が日本に4年間の留学で来ている学生、または海外で生まれ育った日本人でした。少しでも距離を縮めて仲良くなりたいと思いましたし、自分とは異なる環境で育った人たちの考え方を知りたくなりました。
続いて驚いたことが、アジアには、欧米とは本質的に異なる環境への考え方があるということです。
上の図を見てください。欧米の考え方は、人間が生態系の頂点に立つ、という考え方が一般的になっています。そのため、生態系は人間の “happiness”のため、つまり人間を喜ばせるためにあるのだ、という考え方になると言われています。一方、アジア型、とくに仏教的な思想では人間は動物・植物と同じ立場にあり、私たち人間は自然から多大な恩恵を受けていると考えます。そのため、人間は自然に対して恩返しをせねばならず、そのカギとなるのが “peace”、つまり自然の平和を保つための行動をする、ということになるのだそうです。
2.大学での意識調査
上記のようなアジア型環境倫理学の話を聞いた後、私たちが取り組んだのは鎌倉のフィールドトリップへの準備でした。鎌倉では由比ヶ浜ビーチのごみ問題を議題にすることになっていました。現地調査をする上で私たちが用意した質問事項が効果的であるかを検証するために、まずは早稲田大学でごみ問題への意識調査を行いました。大学の学生に質問したのは以下の3つの項目です;①鎌倉の海岸にはどのようなごみが落ちていると思いますか。②そのごみはどこから来ていると思いますか。③誰がごみを捨てていると思いますか。
9組20人ほどの学生に質問をしたところ、①ではペットボトル、瓶や缶、ビニール袋といった答えが多数を占めました。②については観光客、若者という回答の他に、漂流ごみが多いのでは、という意見もありました。③では日本人の学生の多くは、モラルがない人が捨てていると答えました。また、そもそも海岸にはごみ箱がないことが問題だ、と言う人も居ました。一方、外国人の学生からは、日本は普通の道路はきれいだけどイベントスポットは汚い。自分が普段暮らす街ではないし誰も気にしていないという気の緩みから放置しているのではないか、という意見が挙がりました。
③に関しては質問を修正する必要を感じました。なぜならば、ごみが放置されている「原因」を答える人が多かったからです。そこで、③を、なぜごみは放置されていると思いますか、という質問に変更しました。
3.鎌倉へのフィールドトリップ
2017年11月5日に、私たちは鎌倉へフィールドワークに行きました。由比ヶ浜ビーチでは、ごみの種類の観察と、海岸で遊んでいる人たちにインタビューをしました。
海水浴の時期ではなかったこともあり、海岸には人もそれほど多くなく、ごみの量は想像よりは少なかったです。発見したものとしては、ガラスの破片、お菓子のごみ、ゴム、たばこの吸い殻、カメラのキャップ、ペットボトルの破片、ボール、網、缶、おにぎりのごみ等がありました。破片ごみが多くみられたことから、ポイ捨てだけではなく漂流ごみも地域の大きな課題だと感じました。
また、海岸にいる人たちに取材すると、上記①、②の質問では早稲田大学の学生と似たような回答をする人が多かったです。③に関しては、ダイビングをしている時に、海の中に沢山ごみが流れているし、それは綺麗にしたくても回収しきれない、という声が挙がりました。また、イギリスから日本に移り住んだという女性は、言われるまでごみに気づかなかった、由比ヶ浜ビーチは自国の海岸よりは綺麗だと仰っていました。改めて漂流ごみの問題と、国ごとの見方の違いを実感しました。
4.次のフィールドワークへの準備
鎌倉で学んだことを活かし、私たちは、3つの班に分かれて沖縄県西表島でのワークの準備をしました。その中で私の班は「野生生物(wildlife)」をテーマに、現地で見たいもの、聞きたいことを選定しました。
5.西表島でのフィールドトリップ
12月23日から26日にかけて、私たちは西表島で調査を行いました。
2日目に訪れた中野海岸では、鎌倉の時と同様にまずどのようなごみが放置されているかを観察した後、ごみ拾いを行いました。この海岸はごみが非常に多く、全体の10%程度を占めるペットボトルだけでも、10分程度の回収作業で71本が集まりました。
ラベルから判断したところ、そのうち中国から流れ着いたものが55本と最も多かったです。ただしこれは西表島の地理的な問題で、現地のNPOの方によると、日本のごみも中国や台湾に多く流れ着いているそうです。さらに、西表島には焼却施設がなく、拾ったごみを処分するには海上・陸上輸送を経て石垣島まで輸送しなければなりません。そのため、今回私たちが拾った2袋90ℓのごみを処分するだけで、千円以上の費用がかかるとのことでした。ごみが海岸に落ちていることの問題点は、景観悪化だけではありません。それを食べた貝等の海岸生物の体内に有害物質が堆積し、場合によってはその生物が死に至るおそれがあります。また、それにより生態系バランスが崩れる可能性や、海岸生物を捕食する動物や人間への健康被害発生の可能性もあります。この作業を通して、漂流ごみは国際的な問題であるとともに、少なくともこの島では一度流れついた/放棄されたごみを全て回収するのは不可能だということが分かりました。そのため、過剰包装の削減やマイボトルの携帯など、ごみの発生源を減らしていく努力が必要だと感じました。
また、3日目の夜には、ゆんたく(沖縄の方言で、おしゃべりの意。座談会のようなもの)を行い、前日に紅露工房でお世話になった石垣金星さんに2時間ほどお話を伺いました。その中でも特に印象に残ったのは、西表島の方たちが、「自然とともに生きていく」、という感覚を持っていたことです。例えば、この島にのみ生息するイリオモテヤマネコは、山の神様の使いとして、昔から島の人々に大切にされてきました。さらにこの島には、人はヤドカリから生まれた、という神話があるそうです。また、石垣さん夫婦をはじめとして西表島の住民の多くは自給自足の生活を送っています。金星さんの家では、肥沃な土地を活かし、春から秋にかけては米の二期作(場合によっては三期作)を行います。冬はイノシシ狩りをして食料を調達します。野菜も山で山菜を取ります。(ただし、酒とタバコだけはスーパーで買うそうです。笑)西表島の人々は、自然の恩恵を常に意識しながら生きているので、自然への感謝の気持ちを忘れることはありません。一度自然から受け取ったものは、必ず無駄なく最後まで使い切ります。例えばバナナの木を収穫した際には、身を食用、茎を糸として利用します。さらに、島では頂いた命へのお礼を込めて、数多くの祭りが開催されます。イノシシは大昔海の暴れん坊だった、という神話を基に、イノシシの頭を海に投げ入れる儀式もその一つです。金星さんにお話を伺ったことで、私は、西表島の人と比べ、普段の自分の生活がいかに環境へ配慮していないものなのかということを痛感しました。
フィールドトリップ最終日には、野生生物保護センターに足を運びました。現地では、環境省の自然保護職員に、イリオモテヤマネコの保護状況について話を聞きました。イリオモテヤマネコは島全体で100匹ほどの推移を保っています。普通の猫は一度の出産で6頭産むにもかかわらず、イリオモテヤマネコは2頭しか産めないため、繁殖力が弱いです。さらに、外来生物に襲われたり交通事故に遭ったりすることがあります。そのため職員の方が中心となって、外来犬の駆除を行う、道路に防護ネットを張ってヤマネコが道路に出てくるのを防ぎ、看板を設置して車の運転手に注意喚起を行う、といった対策を行っています。また、今回お話を伺った保護官の方は西表島出身の方ではないそうです。ですが、日ごろから島のイベントにはなるべく参加することで、地域住民の文化や意見を理解するよう努力していらっしゃるとのことでした。環境問題の解決のために一つ一つの対策をコツコツと長期的に行うことの重要性と、郷に入っては郷に従えの精神が住民の協力につながるということを学びました。
6.グループ発表
西表島から帰ってきた後のグループ発表では、上廣倫理財団やその他関係者の方を対象に、私たちの学びと考えを発信しました。「平和」や “permaculture”(永続する農業)というキーワードに対しては、現地で学んだ神話や収穫物の無駄を減らす方法を紹介し、「野生生物(wildlife)」という私たちの研究テーマとの関連性をお話しました。また、スローガンとして、 “Small But Important” (小さいけれど大切なこと)を掲げ、日々の小さな行動が環境に与える影響を訴えました。
7.文化から環境を考える
人の価値観を変えることは確かにとても難しいです。現にこの授業を半年間受けた私も、環境問題を解決することの大切さは頭では分かっても、心のどこかで経済発展を通して自分たちの生活をより豊かに便利にしたいという気持ちを持ってしまいます。
ですが、今回の講義、そして鎌倉や西表島でのフィールドワークを通じて、「自然とともに生きていく」という言葉が私の中で以前よりも身近に感じられるようになりました。それは、実際に自分の目でごみで汚れた海岸を見て、自分の手でマングローブの木を活用した染め物を体験し、自分の耳で現地の人の話を聞いたからだと思います。
頭と体の両方でアジア型の環境倫理学を理解することが、ポイ捨てといった小さなことから、持続可能でない土地開発といった大規模な環境破壊まで、環境に悪影響を与える行為を思いとどまるきっかけになるのだと思いました。そして、東京から遠く離れた、自然を大切にする地域の文化を学ぶことが、地域への理解や環境問題解決へとつながっていくのだと考えます。
私自身もこれからもっと多様な文化を学びたいですし、皆様にとっても、私たちのホームページをご覧になることが、環境問題への見方を変えるきっかけになれば嬉しいです。
8.謝辞
この講座を提供・支援してくださった上廣倫理財団、早稲田大学留学センター、吉川先生、礒貝先生、石垣金星さん、昭子さん、そしてすべての関係者の方に心から感謝の気持ちと御礼を申し上げたく、謝辞にかえさせていただきます。